ど根性とあだ名
わが事務所の前のコンクリートに一本の草が生え、伸びている。
間もなく草の先端に花が咲きそうだ。蕾がある。
今さら、古い流行りを言いたくないが、まさに「ど根性草」だ!
この事務所の主に欠けていること。それは努力、粘り、辛抱、根性。全く欠けている。
確か中学生の頃だった。先生が「好きな言葉や格言は?」と訊かれ、みんなはそれぞれ「努力に勝る天才なし」とか「ローマは一日にして成らず」「失敗は成功のもと。失敗を恐れるな」など答えていた。なかには「雨だれ石を穿つ」など知ったようなことを言う秀才もいた。
ぼくは腹で笑っていた。ぼくの好きな言葉は、
「棚からぼた餅」「果報は寝て待て」「濡れ手に粟」。一番好きな言葉は「一攫千金」である。どうだ!
先生はぼくを指した、「君の好きな格言は?」。ぼくはやわらと立ち上がり堂々と答えた。
「楽あれば苦あり、苦あれば楽あり」で~す!。
先生は満足そうに頷いた。通知簿は5だった。
そんな要領の良い生徒だった。努力など大嫌いだった。
先に書いた「雨だれ石を穿つ」と答えた子は東大にストレートで入った。目立たない子だったがそれこそ雨だれのように、こつこつと勉強していたのだろう。仇名は「こしょや」だった。「こしょや」は古書店。眼鏡を鼻にかけた古本屋のおやじの雰囲気があった。
子どもは友だちや先生の仇名をつけるのがうまい。まさに天才である。
うちの女房の学生時代の友だちに「おばちゃん」がいる。高校生の時の仇名という。
「いくらなんでも女子高生におばちゃんはないだろう。嫌がっているやろう」ときくが、「そんなことない。案外気に入っているみたいや」と言う。「容姿がおばちゃんっぽいの?」「違う、世話焼きで、一丁かみで……」。
わかった、困った人をみると放っておけない、「どないしたん、どないしたん」と、よけいなお世話もかって出る…、いるいる、そんなタイプ。
だから、おばちゃんは卒業して40年近いのに女房のところに時々「どないしてんのや」と様子を伺うメールをしてくれている。
差出人は「おばちゃんより」とあるから、案外、気に入っているようだ。もうすっかり本当のおばちゃんになっているから違和感はないだろうがね。失礼!
ちなみにわが女房の学生時代の仇名は「園児」&「ゆっぴ」だった。わかるわかる。園児そのまんま。
ついでにぼくも白状しておかないといかんだろう。
ぼくは、小学校の時は「ナポレオン」。中学の時は「酋長」だった。
ああ、友だちがぼくをどう見ていたいたのか、今ならよく理解できる。生意気で、強引で、自己中心で、いばりくさった子どもだったのだ。
今さらながら反省します。