忠臣蔵 勅使饗応料理の全て。研究者の徒労
研究者が世の役にも立たぬことを夢中になって調べ、鬼の首を取ったように喜々として発表しているーー と、今さら自虐的に言うつもりはないが、忠臣蔵の季節になるといつも思い出すのは「勅使饗応料理」の献立を懸命に調べたことだ。そして、鬼の首を取ったように喜々として発表したぼくの姿だ。
そんなもの、誰も興味を示さなかったのに。
浅野内匠頭と吉良上野介の喧嘩のネタは数々語られているが、その一つは、勅使に出す料理だった。
本膳料理か精進料理かのやりとりだ。その日に実際に出した料理の献立を調べた。ちょっと苦労したが次の献立だった。
この献立を拙書『忠臣蔵と江戸の食べもの話』(新葉館出版)に書き、少々は話題になると思っていたが、見事、空振りだった。
悔しいから、ここに書いておく。
興味のない方は読まなくていいゾ!
勅使の前に、まず三つの三方が出る。ここから会席の始まりである。
三方の一つには敷紙に長熨斗。
一つには雑煮椀、梅干盛、田作盛。
三番目の三方は蓋置きである。
その三方がすべて片付けられ、いよいよ三汁十一菜の本膳料理となる。
○本膳は、
膾(鯛・よせ赤貝・白髭大根・木耳せん・栗生姜・金かん)。
香の物(奈良漬瓜・守口大根・粕漬茄子・味噌漬人参・味噌漬なた豆・塩山椒)。
煮物(ひらき鴨・色紙麩・つみせり)。
汁(つみれ・しめじ茸・葉大根・薄皮牛蒡・めうど)。
ご飯。
○二の膳は、
杉箱(結えい・花形山吹・穂くわい・広岩茸・八重成・敷みそ)。
小桶(のしもみ)。
汁(鯛背切・木の芽)。
酒浸(塩引鮭・もみしめ貝・黒くらげ・よりかつお・山川酒)。
○三の膳、
差し味(鯉子付・かき鯛・えんす・海そうめん・くねんぼ・わさび)。
煎酒。
汁(わかめ)、茶碗(花みる貝・土筆・かけしお)。
○与の膳、
向詰(小鯛・かけしお)。
○五の膳、
洲浜台(大坂かまぼこ・みの焼あいなめ・あんかけたいらぎ)。
平皿(甘鯛ふわふわ・みの笠茸・鍵わらび)。
以上が、五の膳の三汁十一菜である。
これが勅使饗応料理の全て。苦労して入手した原典通りである。
しかし何だね。こんなものを長い時間と労力を費やして調べる、物書きや研究者は、淋しい人種だね。
では、ご機嫌よう。