花を知らずに恋に泣く
前回、フリージャーという花を知らなかったと白状した。
何を隠そう、ぼくは花や植物にあまり興味がない。
花の名など知ろうともしない。
昔からだ。
随分前、ぼくが歌人だった頃、近藤芳美先生と信州を旅したことがあった。
街はたしか、上田か松本、道を歩きながら近藤先生が歌の話をした。
「ななかまどだね」といった。
ぼくは、七つの竈(釜)だと思った。
「どこに七つも竈があるんですか?」とぼくが聞くと、周囲の歌人たちが爆笑した。
目の前の街路樹が、ななかまどという木だった。
笑われて済む植物オンチもあるが、情けないこともあった。
ぼくは相聞歌を詠んだ。かなり真剣だった。
告げなんと振り向けば君の微笑みて
藤の小花のしだれ降るなか
若いぼくの恋歌である。
すると妙齢の歌人は、ぼくにこう言った。
「きれいな相聞歌ね。でも藤の花は散らないのよ。藤は枝についたまま、咲き枯れるのよ」。
もっと花を勉強しなさい! と言わんばかり。
ぼくの恋も咲き枯れてしまったのであります。
*
写真は「ななかまど」と「藤の花」。
説明しなくっても分かるって? すんまへん。