茂吉もわれも

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 ひさしぶりに鰻を食った。
 本当に一年に一度である。
 鰻が値が張る食い物になってしまったこともあるが、持病の糖尿病には悪い食い物で制限されている。
 しかし、うまい。
 今年も妻にねだった。
 今年は短歌で攻めた。

    わが妻に吾れ物申す この猛暑 鰻喰わずば病にぞならん

 返歌が来た。

    太り太る君の見事な血糖値 鰻喰わずとも夏痩せはせぬ

 この返歌にひるまず、恐れず。あとはガキのように泣いたり、駄々をこねたりすると何とかなるのは経験上分かっている。
 さらに作戦。
 「最近、中国の食品は危ないね。床に落ちているくらいならいいが、豚に薬品を飲ませて肉を良くみせているというじゃないか。養殖鰻の餌だって何を食わしているかわからない。ブツブツ・・」
 と独り言のように言えばいい。これで中国産はなしとなる予定。

 成功!

 食卓には三河一色産の高級な鰻の蒲焼。堂々と、長々と皿の上に。
 そして一年に一度の土用の丑の日がわが家にも来たのであります。

 さて、ぼくの歌人としての師匠の師匠は斉藤茂吉。茂吉の鰻好きはアララギの歌人なら知らぬ人はないほどだ。
 それをふまえて腰折れ一首。

     歌にせぬほどにぞ美味き蒲焼のテリに微笑む茂吉もわれも

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