3月の雪
南国・知多半島にも雪が降った。
3月なのに。
降る雪を見ていると実に様々なことを思い出す。
降る雪をじっと見ていると、どこか別の世界に誘われる錯覚にとらわれる。
雪の精が、おいでおいでをしているような錯覚だ。
十数年前、ぼくは知多半島にやって来た。
空き地に、野生の向日葵が咲いていて驚いた。
村より大きな夕日が見えて驚いた。
この土地の人にとって驚くようなことではないのだろうが、心底驚いたものだ。
それまでぼくは大都会の小さなビルにいた。
ぼくの事務所の二階の窓から、大きな桐の木が目の前に見えた。パソコンの画面に疲れると桐の木をみると心が和らいだものだ。
桐は目まぐるしく変化する木だ。
向こうが見えないほど大きな葉をつける。風に騒がしく吹かれる。何年に一度は小さな花のようなものもつける。
かと思えば、一気に葉を散らすと、細枝が寒空にさびしく震える。
そんな桐を毎日見て過ごした。
金はまるでなかったが、桐の木と、優秀なスタッフがいるこの事務所は大好きだった。
ある3月を思い出した。
こんな短歌を詠んだ日だ。
悲しきこと言ってUさん帰りたり 桐の木に降る三月の雪
*
写真はイメージ=東京の某所