3月の雪

ファイル 233-1.jpg

 南国・知多半島にも雪が降った。
 3月なのに。

 降る雪を見ていると実に様々なことを思い出す。
 降る雪をじっと見ていると、どこか別の世界に誘われる錯覚にとらわれる。
 雪の精が、おいでおいでをしているような錯覚だ。

 十数年前、ぼくは知多半島にやって来た。
 空き地に、野生の向日葵が咲いていて驚いた。
 村より大きな夕日が見えて驚いた。
 この土地の人にとって驚くようなことではないのだろうが、心底驚いたものだ。

 それまでぼくは大都会の小さなビルにいた。
 ぼくの事務所の二階の窓から、大きな桐の木が目の前に見えた。パソコンの画面に疲れると桐の木をみると心が和らいだものだ。

 桐は目まぐるしく変化する木だ。
 向こうが見えないほど大きな葉をつける。風に騒がしく吹かれる。何年に一度は小さな花のようなものもつける。
 かと思えば、一気に葉を散らすと、細枝が寒空にさびしく震える。

 そんな桐を毎日見て過ごした。
 金はまるでなかったが、桐の木と、優秀なスタッフがいるこの事務所は大好きだった。

 ある3月を思い出した。
 こんな短歌を詠んだ日だ。

   悲しきこと言ってUさん帰りたり 桐の木に降る三月の雪

 *
 写真はイメージ=東京の某所

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です