ピアノのコンサート

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 ピアノグループ「えすぷり」のコンサートに出かけた。
 実は愚妻・優子が出演、演奏する。だから、これに欠席すると大事件になってしまう。恰好は悪いが杖を片手に名古屋伏見の電気会館・ザ コンサートホールに行った。

 クラシック音楽は学生の頃からなぜか好きで、金沢の木倉町にあった名曲喫茶「寿苑」に通い詰めていた。「寿苑」は狭く細長い店で一番奥に天井まで届くような大きなスピーカーが設えてあった。そこから流れるクラシックの名曲を聴くのだ。
 当時はコーヒーが50円、トーストが50円。そして一旦入店すると学生の厚かましさもあって半日ねばるのが常だった。
 注文は当然1品50円、但し選曲の注文はタダだから際限なくしたものだ。
 本当はチャイコフスキーが好きだったが、「チャイコなど聴くのは素人だ」と気取って、バッハばかりをリクエストしていた。だからかどうか、今はバッハは好みではない。
 テーブルには冷めたコーヒーと岩波文庫のハイネの詩集。苦虫を噛みつぶした顔でバッハを聴く。そんな学生客だった。
 ああ苦笑である。

 時代は下がり、今から20年ほど前のことだった。
 優子と金沢に行った時、懐かしさもあって「寿苑」に誘った。店はクラシック名曲喫茶でなくスナックになっていた。でも店内には昔の雰囲気がそこはかと残り、水割りを飲みながら懐かしんでいた。
 すると店主(確か徳山さん)が突然、「あんた美大の子やろ・・。ほら、ほら・・」と言われ、仰天した。30年以上前の迷惑な客を覚えていてくれたのだ。
 「当時はお世話になりました。もしかしたらツケを残していない?」
 「そんなものないわいね。懐かしいね」。
と昔話に花が咲いた。

 今回の「えすぷり」はピアノだけのコンサート。優子は藤本逸子先生(東海学園大学教授)とベートーベンを連弾した。それも5番。ご存じの「運命」だ。
 あの壮大な交響曲、50人ものオーケストラで聴かせる曲を1台のピアノで2人で弾く? 選曲に無理はないの? と余計な心配をした。 
 「ああ、失敗して恥をかかねばいいが…」が本音だった。
 でも何とかなったみたいな感じ・・・。

 ぼくが感想を言うわけにはいかないが、久しぶりに困惑の気持で「運命」を聴かせてもらった。♪ダダダ、ダン

 

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