少年老いやすく恋なり難し

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 もうすぐ12月。早いものだ。また一つ年をとる。
 「少年老いやすく学なり難し」。還暦をとうに過ぎたぼくだが、心はまだ少年…… たるべし。

 新美南吉の初恋を某雑誌に書いた。写真の常夜燈にまつわる話である。常夜燈は南吉の生家の前に立つ。台座を見てほしい。小さな穴がいくつも掘られている。子どもたちが削りとるようにコツコツと掘ったものだ。何日もかかったろう。そして掘れたらここに花を挿して遊ぶ。当時の子どもたちは他に遊びがなかったのか根気がよかったのか、気の長い遊びである。
 遊びの輪に少年南吉がいた。そして南吉の視線の先にツルという可愛い女の子がいた。南吉は彼女に特別な感情を抱いていた。

 そんなことを書きながらぼくの初恋は― と考えた。
 告白しよう。小学1年の時である。小柄な女の子、○田愛子さんが同級にいた。学校の帰りに習いに行くらしく、いつも身体の半分もあろうかというバイオリンケースを抱えていた。
 田舎者のぼくにはバイオリンも珍しかったが、それより驚いたのは彼女のお弁当だ。サンドイッチ。それも籐のバスケットに入れてくる。ぼくは気絶しそうだった。
 ぼくの弁当といえばスルメの佃煮と沢庵。前夜の残り物の煮物がおかずも当たり前。サ、サンドイッチなど生まれて初めて見るものだったかもしれない。
 ぼくは愛子さんに恋をした…… 

 南吉のツルへの恋はやがて冷めていった。
 ぼくの愛子さんへの恋は、サンドイッチばかり見ていたので実らなかった。
 ああ、恋なり難し。

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