神も仏もない話
榊原亀三郎の鴉根弱者救済所に稲荷神社がある。神社はあるが参拝する人はない。
それは閉鎖されているのだから当たり前なのだが、12月に行った同所の公開見学会の際、神社に畏敬を表する意味でも神官にお祓いをしてもらうことにした。
乙川八幡神社の宮司とは親しいので、遠路の出張になるが「安くお願い」と泣き付いた。喜んでか、しぶしぶかは分からないが承諾してくれた。酒もお供えも用意した。
当会の伊藤正治会長が、「貧乏人の西にだけ祈祷料を出させるのはかわいそうだ」と半分出してくれた。
ところが見学会の数日前、亀三郎の子が亡くなった。生存する最後の子である。ご親族から連絡があり「喪があけるまで祈祷は遠慮してくれ」。神への祈祷はお祭に通じるのでいけない、ということだ。
宮司に中止を連絡したのだが、ぼくの手許に祈祷料が残った。
「伊藤さんよ、いっぺん神様に出した金を引き上げると罰があたるよ」
とぼく。ここまでは立派な人の台詞だ。立派な人なら、こう続ける。「亀三郎のように慈善事業に寄付しよう」。
ところが、ぼくはこう言った。
「これで宝くじを買おう。3億円やで、3億や。明日から竜宮城のような暮らしが出来るデ。なあ、伊藤さん!」
伊藤さんは、もともと長い鼻の下をさらに長くして、
「竜宮城か~、乙姫さまか~、ええなぁ~。ええよ。一緒に行こ!」
そして祈祷料が宝くじに変身したのでありました。
結果は? 聞くまでもない。神様はそんなに甘くない。仏様だってそう。「神仏に寄与すべき金を、何たる不埒な! 喝!」。
竜宮の夢は、玉手箱の煙のように消えたのであります。