飛田東山はヤクザなのか
飛田東山の全身には間違いなく刺青がある。牡丹の花と唐獅子。さよう、唐獅子牡丹である。だからといって飛田はヤクザではない。もし刺青がある男は全員がヤクザだ、反社勢力だ、という人がいればそれは時代錯誤である。現代ならともかく昔はごく普通のことだった。(現在でも世界スーパーフライ級のチャンピオン、井岡一翔選手の腕に刺青があるが、井岡はヤクザじゃないよね)
戦前の職人に刺青は決して珍しくない。と言うより普通だった。もっと言う。江戸の町火消のほとんどの背中には刺青。一人前の職人に刺青は当然。そして有名な遠山の金さんこと江戸町奉行・遠山金四郎景元。「この桜吹雪に見覚えがねぇとは言わせねえ!」と言いながら片肌脱ぐと桜吹雪の刺青。この刺青も諸説はあるが作り話とはいえない。当時、職人彫もあれば武家彫もあった。つまり刺青者はヤクザでも反社でもないのだ。
つまらぬことを随分書いた。これは刺青=反社会勢力=悪い奴 という短絡的な考えを捨てて欲しいと思うからだ。
と言うが飛田東山は映画「昭和残侠伝シリーズ」で高倉健演じる花田秀次郎のモデル。秀次郎はヤクザだから飛田もそうだと思われても仕方がないが、実は、全く違う。「ヤクザをやっつけ、弱者を助ける、ヤクザ嫌いの男なのだ」。
良識派のみなさん、インテリのみなさん、どうぞ誤解のないように。
この飛田の行動は、権力の前に立ち塞がり「弱い者を虐める奴は許さん、俺が相手だ!」なのである。だから我々凡人には判りにくい。
小河内ダム工事に前科者六六〇人を連れて入山。彼らの多くを更正させたことや、戦時中、全国の百四十万人の下層労働者を組織して軍需工場の地下化に協力していたこと。それらは下層労働者に仕事を与え、下層労働者や刑余者の惨めな環境や待遇の改善が目的だったのだ。
ちょとというより、かなり分かりにくいが飛田のこれらの偉業が認められる日が必ず来るはずだ。
現在も多摩のあちこちには飛田を顕彰する碑が建っているのが若干の救いだ。
本稿でぼくは刺青を正当化しているわけではない。それどころか、「親に貰ったきれいな身体を墨で汚すな! 親不孝者!」と言いたい方の人間である。反面、刺青(タトウー)を入れる決意をした少年・少女の境遇にも心を配る。
きれい事のようだが、どんな風体だろうが「良いことをするか、悪いことをするか」が問題だろう。